はじめに
この記事では、「属人的な生産計画立案から脱却したい」という方向けに、 デジタルツールやシステムの有効な使い方をご紹介していきます。
タイの日系製造業の現場では、ベテラン社員の退職が進みつつあります。 これに伴い、長年にわたり個人の勘と経験に依存してきた 生産計画のブラックボックス化が浮き彫りとなっています。
今回は、生産計画がなぜ属人化してしまうのか、その背景と影響について掘り下げます。
この記事のポイント:
生産計画の属人化は、単なる担当者依存の問題ではありません。
プロセスの未整備、エクセル依存、勘と経験に頼る運用が重なることで、
現場全体のリスクにつながります。
なぜ生産計画は属人化してしまうのか?背景にある3つの要因
生産計画の属人化は、ある日突然発生するものではありません。 日々の業務の中で少しずつノウハウが個人に集中し、 気づいたときには他の人が引き継げない状態になっているケースが多く見られます。
1. 計画プロセスの標準化が未整備
生産計画には、工程数や製造期間の把握、部材手配など、 多岐にわたる作業が含まれます。 しかし、これらのプロセスが文書化されておらず、 担当者の頭の中にだけ存在しているケースが少なくありません。
- 「Aさんがやってきた方法で」という表現が日常化している
- エクセルに複雑な計算式が組み込まれているが、その意味を理解しているのは作成者だけ
- 計画立案の基準があいまいで、工程ごとの生産量や納期が人によってバラバラになっている
結果として、計画プロセス自体が標準化されず、 担当者の退職や異動によって一気にノウハウが失われるリスクが高まります。
「誰が見ても同じ判断ができる状態」になっていない場合、 その生産計画はすでに属人化している可能性があります。
2. エクセルへの依存と“エクセルお化け”の蔓延
「エクセルお化け」とは、複雑な計算式やマクロが組み込まれ、 誰も解析できない状態のエクセルファイルを指します。
現場では、システムを導入しても最終的にはエクセルで計画を立ててしまうケースが後を絶ちません。
- 計画立案の際、エクセルに組み込まれたマクロが更新されず、古いロジックのまま使用される
- 本来システムで管理すべきデータが、エクセルの中に閉じ込められている
- ファイル容量が膨大になり、開くたびに動作が重くなっている
タイ現場の事例でも、ERPや各種生産管理システムを導入したにもかかわらず、 実際の生産計画はエクセルで管理されていたというケースが見受けられます。
「エクセルの方が早い」「慣れているから安心」といった現場の声が背景にありますが、 このままではエクセル依存がさらに強まり、 システム導入の効果が発揮されません。
注意したいポイント:
エクセル自体が悪いわけではありません。
問題は、計画ロジックや判断基準がファイルの中に閉じ込められ、
他の人が検証・修正・改善できない状態になることです。
3. 属人化の背景にある「勘と経験」の存在
生産計画の属人化の根本的な要因は、 「勘と経験」に頼った計画立案が常態化していることです。
特にタイ現場では、以下のような傾向が見られます。
-
製造リードタイムの設定が担当者の裁量に依存している
- ベテラン社員が過去の経験から納期を設定しているが、その基準が共有されていない
-
計画の粒度が担当者の感覚で決まる
- 大日程計画と小日程計画が曖昧になり、「一括で全工程を管理するエクセルファイル」が増加している
-
人員計画が属人的になりやすい
- 特定のスキルを持つ作業員の負荷が偏りがちで、計画の見直しが進まない
これらの背景には、「現場に任せるのが一番早い」という認識が 根付いていることも影響しています。
しかし、このままではベテラン社員が退職した際、 ノウハウの継承ができず、生産計画の立案能力が急激に低下するリスクが高まります。
属人化が引き起こす3つのリスク
属人化が進むことで、具体的にどのようなリスクが発生するのでしょうか。 主なリスクは以下の3つです。
1. 生産計画の遅延と納期遅れ
- ベテラン社員が急遽退職した場合、代替策が整っておらず、納期の遅延が発生する
- エクセルファイルの解析が困難なため、計画の立案に時間がかかる
2. 作業負荷の偏りと現場の混乱
- 特定の作業員に負荷が集中し、体調不良や離職が発生しやすくなる
- 作業内容が標準化されていないため、新任者が計画を立てる際にミスが生じる
3. ノウハウの消失と計画精度の低下
- 長年の勘と経験で積み上げたノウハウが、退職と同時に失われる
- 新たな計画担当者がゼロから計画を立て直すことになり、生産性が低下する
属人化の本当のリスク:
担当者がいる間は問題が見えにくい一方で、
退職・異動・休職などが発生した瞬間に、
生産計画全体が止まってしまう可能性があります。
デジタル化で属人化を防ぐ3つの視点
属人化を防ぐためには、単にシステムを導入するだけでは不十分です。 以下の3つの視点で、業務の整理とデジタル化を進めることが求められます。
1. 計画プロセスの標準化と可視化
- 生産計画のプロセスを洗い出し、工程ごとに標準手順書を作成する
- 計画立案の基準を数値化し、社内で共有する
- リードタイムの設定基準や工程間の調整基準を明確にする
まずは、現在の計画業務がどのような流れで行われているのかを可視化することが重要です。 業務の流れを整理することで、どこに属人化の原因があるのかを把握しやすくなります。
2. エクセル依存の脱却とデータ一元化
- 計画データをシステム上で管理し、エクセルファイルを参照する回数を減らす
- マクロや計算式の内容を見える化し、データの再利用性を高める
- 個別ファイルではなく、共通データをもとに計画を立てられる状態を目指す
エクセルを完全になくす必要はありません。 ただし、重要な計画データや判断ロジックが個人ファイルの中だけに存在する状態は、 早めに見直す必要があります。
3. 力量管理の視点を取り入れた人員計画の立案
- 作業員のスキルや稼働率を把握し、人員計画に反映させる
- 特定の作業員に負荷が集中していないかを確認する
- 非量産型製造業の現場では、MRPよりも力量管理の方が適しているケースもある
非量産型製造業の現場では、標準的な部材所要量計画だけではなく、 作業者のスキルや対応可能な工程を踏まえた 力量管理に基づく人員配置計画が重要になる場合があります。
この点については、次回以降の記事で詳しく解説します。
まとめ:生産計画の属人化は、早めの可視化と標準化が重要
いかがでしたでしょうか。この記事でのポイントは以下の通りです。
- ベテラン社員の退職が進むタイ現場では、生産計画の属人化が深刻化している
- エクセル依存によるブラックボックス化が進み、新任者が計画を引き継げないリスクが高まっている
- 力量管理の視点を取り入れた計画立案と、エクセルお化けの排除が今後の課題となる
生産計画の属人化を防ぐには、まず現状の計画プロセスを見える化し、 判断基準やデータの管理方法を整理することが第一歩です。
次回は、「エクセルお化けの正体とは?」をテーマに、 解析不能なエクセルファイルがどのようにして現場を混乱させているのか、 その背景と解決策について詳しく解説します。