講座の概要

本講座では、まずExcelで生産計画を作成している現場が抱える工数負荷、属人化、システム導入時の不安を整理します。
次に、計画担当者が頭の中で行っている判断をルール化し、現在のExcel帳票をアウトプットとして維持しながら計算処理を自動化する考え方を解説します。
そのうえで、計算ロジックが固定化されること、言語化できない判断はシステム化しにくいこと、最適解を出す仕組みではないことなど、導入時の注意点も紹介します。
さらに、Excel自動化を出発点として、イレギュラー対応履歴の蓄積、数理最適化エンジンやスケジューラーの活用、AIによる計画評価や改善提案へ発展させる流れを説明します。
最後に、現行Excel・入力データ・出力結果の確認、計画担当者へのヒアリング、プロトタイプ開発、検証・修正という導入ステップを整理します。

Excelを捨てずに、生産計画を自動化するという考え方

生産管理システムやスケジューラーの導入が進む一方で、製造現場では今でもExcelを使って小日程計画を作成しているケースが多くあります。 設備の能力や特性、作業員のスキルや勤怠、納期、工程順序などを考慮しながら、計画担当者が毎日試行錯誤して計画を作成している現場も少なくありません。

一方で、タイでも人件費の上昇や人手不足の課題が顕著になっており、計画立案業務の合理化や自動化は避けて通れないテーマになっています。 しかし、本格的なスケジューラーや新しい生産計画ソフトを導入すると、費用負担だけでなく、現場の運用変更や混乱が発生する可能性もあります。

そこで有効なアプローチの一つが、現在使っているExcel帳票を基本的に活かしながら、裏側の計算処理だけを段階的に自動化する方法です。 見た目やアウトプットを大きく変えずに、計画立案の工数を減らすことを目指します。

計画担当者の頭の中をルール化する

Excelを活かした生産計画自動化の基本は、計画担当者が頭の中で行っている判断を可視化し、ルール化することです。

たとえば、出荷計画を見て、各注文の納品日の2日前に出荷検査工程を置く。 その前に最終加工工程を置く。 品目の特性やロットサイズを見て、どの加工機を使うかを決める。 このように、計画担当者が日々行っている判断を一つずつ整理し、計算ルールとして定義していきます。

さらに、計画立案に必要なインプット情報も整理します。 出荷計画、品目情報、設備情報、工程情報、ロットサイズ、作業員の条件など、計画判断に必要な情報を明確にし、ルールに組み込んでいきます。

アウトプットは、これまで使用していたExcelシートを基本的にそのまま使います。 つまり、現場から見ると従来のExcel帳票を使い続けているように見えますが、裏側では計画立案の計算処理が自動化され、手作業よりも短時間で計画案を作成できるようになります。

完全自動化ではなく、人が確認・調整する前提で進める

生産計画は、単にルール通りに並べればよいものではありません。 計画担当者は、現場の状況や過去の経験、例外対応など、多くの要素を考慮しながら判断しています。 そのため、すべてを最初からコンピュータに任せるのは現実的ではありません。

このアプローチでは、システムが計画案を作成し、最後は人が確認・調整することを前提にします。 つまり、システムは計画担当者の代わりにすべてを決めるものではなく、計画作成のたたき台を短時間で作る役割を担います。

人は、出力されたExcelの計画案を確認し、必要に応じて編集・修正します。 これにより、計算作業の負荷を減らしながら、最終判断は現場を理解している人が行う形を維持できます。

Excel自動化ソリューションのメリット

この方法の大きなメリットは、現場の運用を大きく変えずに始められることです。 新しい画面や操作方法を一から覚える必要が少なく、これまで使ってきたExcel帳票を活かしながら自動化を進めることができます。

また、計画担当者の判断をルール化する過程で、これまで属人的だった業務が可視化されます。 誰が、どの条件で、どのような判断をしているのかを整理することで、業務の標準化にもつながります。

  • 現行のExcel帳票を活かして始められる
  • 計画立案の工数を削減できる
  • 計画担当者の判断ルールを可視化できる
  • 属人化していた業務を標準化しやすくなる
  • 将来的な最適化やAI活用の土台を作れる

一方で、デメリットも理解しておく必要がある

Excelを活かした自動化は、始めやすい一方で、万能ではありません。 導入前に理解しておくべき制約もあります。

1. 計算ロジックが固定化される

一度プログラム化した計算ロジックは、前提条件が大きく変わると改修が必要になります。 たとえば、生産方式が変わったり、工程が増減したり、設備の使い方が変わったりした場合、マスター設定だけでは対応できず、プログラム改修が必要になることがあります。

2. 高度化・大規模展開には限界がある

この仕組みは、計画担当者が言語化できる判断ルールをもとに作ります。 そのため、人間がうまく説明できない判断や、経験・勘に依存している例外対応は、そのままではシステム化しにくい場合があります。

また、品種、工程、設備、制約条件が増えると、単純なルールだけでは管理が難しくなり、計算時間やロジック保守の負荷が増える可能性があります。

3. 最適解を作る仕組みではない

このソリューションの目的は、まず計画立案の作業工数を削減することです。 計画担当者の頭の中にあるルールを再現するため、判断の標準化やミスの削減は期待できます。

しかし、人間が作っていた計画が必ずしも最適な計画とは限りません。 そのため、現在のルールを自動化するだけでは、生産計画そのものが大幅に最適化されるとは限らない点に注意が必要です。

Excel自動化で止めず、段階的に発展させる

Excelを活かした自動化は、最終ゴールではなく、将来のシステム拡張に向けた第一歩として捉えることが重要です。

最初の段階では、現状業務を可視化し、属人化を減らし、計画立案の工数を削減します。 この段階で、計画担当者の判断ルールや例外処理を整理することで、業務を明確なロジックとして定義できます。

次の段階では、イレギュラー事象や人が行った調整内容を履歴として蓄積します。 そのデータを分析することで、頻出する例外を新しいルールとして追加したり、作業時間や遅延リスクを予測したりできるようになります。

さらに、条件や対象範囲が増え、組み合わせが複雑になった段階では、数理最適化エンジンやスケジューラーの活用を検討します。 これにより、人手では比較しきれない多数の計画候補から、制約を満たすより良い計画を探索できるようになります。

最後に、生成AIを組み合わせることで、自然な言葉で条件を追加したり、計画結果の理由や変更点を説明させたり、過去の類似事例を参照して対応案を提示させたりすることも考えられます。

導入の進め方

Excel自動化ソリューションを導入する際は、まず現行業務を正しく理解することから始めます。 現在使っているExcelシート、入力データ、出力結果を確認し、計画担当者へのヒアリングや実際の作業観察を通じて、判断ルールと例外処理を整理します。

次に、整理したルールをもとに、エンジニアが計算処理をプログラム化します。 ある程度形になった段階で、プロトタイプを使って試験的に計画案を作成します。

その結果を計画担当者が確認し、人が作った計画とシステムが作った計画の違いを見ながら、少しずつプログラムを修正していきます。 このように、プロトタイプを作り、検証・修正を繰り返しながら本番に近づけていく進め方が現実的です。

本番稼働後も、システムが作った計画と実際の生産実績との差異を確認しながら、精度を高めていくことが重要です。 対象範囲を限定したプロトタイプであれば、3〜4か月程度が一つの目安になりますが、対象品目、工程、例外処理、データ整備状況によって期間は大きく変わります。

まとめ

生産計画の自動化を進めるうえで、現在使っているExcel業務をすぐに捨てる必要はありません。 むしろ、Excelの計画表は、将来のシステム拡張に向けた重要な土台になります。

まずは、Excelを通じて計画担当者の頭の中を可視化し、言語化し、ルールとして整理する。 そのうえで、計算処理を自動化し、計画立案の工数を削減する。 これが現実的な第一歩です。

ただし、この段階では「自動化」はできても、「最適化」までは実現できていません。 次のステップとして、調整履歴や実績データを蓄積し、数理最適化エンジンやスケジューラーを活用し、より良い計画を探索できる仕組みへ発展させることが重要です。

さらに将来的には、生成AIを組み合わせることで、計画案の自動作成、複数シナリオの比較、変更理由の説明、改善案の提示までを支援できる高度な計画支援環境へ発展させることも可能です。

「自社の規模ではDXは難しい」「現場の混乱を避けたいからシステム化に踏み切れない」と感じている場合でも、諦める必要はありません。 まずは、現在のExcelを活かした小さな自動化から始めることが、生産計画DXへの現実的な第一歩です。